蛇口を閉めた塩尾瀬のあとを追いかける。
 梅雨のどんよりした空気をかき分けていくみたいに、塩尾瀬の足取りは軽い。
 盗まれたら厄介だからと、カバンと道具一式を持っていても重そうには見えなかった。

「中学一年生のときから写真部だったの。中学校は駅の向こうにあってね、この高校よりずっと広くて。生徒も多かったんだ」
「駅の向こうって、隣の町か。あっちは行ったことないかも」
「隣町は図書館とか、ファミレスもあるし、おばあちゃんがよく野菜を持って行ってる道の駅もあるんだ」

 話題を変えてしまったけど、大きな進歩だった。
 写真部のことを話せなくても、あの時のことを思い出して震えることはなかった。
 眩しい金を見つめているときは、心臓が静かで落ち着いていた。