ついカメラで撮りたくなってしまって、あたしは自分に驚いた。

―あんなにもカメラなんて触りたくないって思ってたのに…。

 カーンと遠くでボールが打ちあがる音が聞こえた。きょうは誰が道具を片づけるんだろうか。でも、今更のこのこと行って姿を見せる勇気はなかった。

「花壇の花はなんていうの?」
「あっちは千日紅。すげー長く開花するんだぜ」

 塩尾瀬はその花の様子を見て咲き終わってしまった花びらを摘んだ。こうしないと株が衰弱してしまうそうだ。
 腕を引っ張られたので、そのまま塩尾瀬のあとに続いた。
 水飲み場でじょうろに水を溜めていく塩尾瀬は、可愛らしいゾウのじょうろと似合っていない。

「もうこの学校に写真部は存在してないのか?」
「うん…、あたしのせいで」
「なんだよ。映画の怪獣みたいに暴れたのか?」

 笑って言うのであたしもつられて笑いそうになった。
 カメラもそうだけど、塩尾瀬と出会ってから膨らむ一方だった恐怖が薄れている気がする。