あたしとおんなじひとがいる。でも、そのひとは出来ることが増えていった。
 希望に満ちた素敵な話だ。

「俺も、見よう見まねで花を育ててるけど、上手くいかないことのほうが多い」

 温かな声で紡がれると、あたしは自分だけが何も出来ないひとだと思い込んでいるんじゃないか、と希望を抱いてしまいそうになる。

「俺が何にもできないヤツに見えるか?」

 首を横に振ると塩尾瀬が目を細めて口角を持ち上げた。
 あたしと違って塩尾瀬はたくさんのことができる、と言いたい。でもあたしはまだ塩尾瀬のことを何も知らない。
 あたしの手はいつの間にか塩尾瀬の袖を握っていた。
 縋っているみたいで恥ずかしくて、すぐに離す。
 ごめん、と謝る前に塩尾瀬が口を開いた。

「俺も、前の学校で似たような目に遭った。物は消えるし、何もしてないのにバカにされるし」

 綺麗な横顔に憂いた色が見える。それでも塩尾瀬の瞳は、髪と一緒できらきらと光っていた。

「でも同情してるわけじゃない。俺はどうでもいいヤツには関わらないし」

 まだ残っていた涙の欠片が緑の葉っぱの近く、ふかふかの土に落ちて染み込んだ。

「まあ、とりあえず放課後に見学してみて、楽しそうだと思ったら入部すればいい」
「……わかった」

 そんなあたしたちのやりとりを、追いかけてきた周が見ていたなんて知らなかった。