もうすぐお昼休みが終わってしまう。
午後の授業を終えたらいつも通り着替えて、誰よりも早くに野球部の倉庫に行って準備しなくちゃいけない。
「女のやることじゃねーだろ。他には?」
「……あたしも一緒に走り込みに行くし、ボール投げもするし、校庭も走るよ」
言いたくないはずだったのに全部言ってしまった。塩尾瀬の顔色を窺うと、あたしの手を強く握りしめてきて悲鳴を上げそうになる。
「闘おうぜ」
「…え?」
闘う、って何に対してだろう。塩尾瀬の手はきのうと同じように冷たいままだ。
「自分のやりたくないことから離れたっていいんだよ」
「そんな、そんなこと」
「それに浅咲は何にもできないヤツじゃない」
はっきりと言い切った塩尾瀬に喉奥に詰まった言葉が零れた。
「あたしに…できることがあるの?」
「あるだろ。たくさん」
「…たくさん」
手を離されて、カバンから塩尾瀬は何かを探し出すと、あたしにそれを渡した。
「あげる」
受け取ってみると、何かの花がプラスチックに挟まれている。枯れることなく、綺麗な色を保ったままの花にあたしは目を奪われた。
「綺麗な紫…ラベンダー?」
「いや、サルビアって言う。母さんがくれたお守りみたいなやつなんだ」
「え、そんな大事なもの」
「大事にしてくれよ。母さんは花を育てる以外に料理が上手で、読み書きも得意だった。でも大人になってから出来るようになったらしくて、それまで自分のこと何もできないヤツだって思ってたらしい」