「浅咲、いいか」
あたしの机に細くて長い腕が映り込む。きのうと同じ、どこか温かい声にいつの間にか息を止めていたことに気付いた。
顎を掴まれて無理やりそちらに顔を向けさせられると、塩尾瀬が至近距離であたしを見ている。
「ちょっとついてきてほしいんだけど」
「おい、一花」
周の声を振り払うように腕を引っ張られた。
言われるがまま席を立って塩尾瀬を追いかけると、彼は教室を出たところで肩にかけていたカバンから何かを取り出した。
「これ、お前?」
見せられた写真に頷くと、塩尾瀬は「まさか職員室前の剥がしたのか?」と焦った顔を見せたので、いつの間にか強張っていた顔を緩ませた。
「家から持ってきたの。職員室前のはコピー」
「じゃあ原画みたいなもんか、すげー」
「あげる」
「マジ? 大事にする」
ちょっと目じりを赤くした塩尾瀬はその写真を大事そうに持ったまま、靴を履き替えて校舎の影になっている裏庭に向かった。