夜遅くにお母さんと帰ってきたおばあちゃんは、ほとんど話さないまま眠ってしまった。

「当分お母さんもここにいるけど、日中は仕事だから。ご飯は自分で用意して」

 お母さんの冷たい声を思い出しながら、あたしは塩尾瀬の傘を見つめた。

―どうやって返せばいいんだろう…。周たちに見つかったら何か言われるよね…。

 きょうも門のところにふたりが待ってる。
 体中のあちこちが悲鳴を上げる中、あたしは塩尾瀬の傘を玄関に置いたまま、自分の傘を広げた。

 ぽつぽつと雨が降り注ぐ中、赤い傘と黒い傘を追いかける。
 雨の日はふたりの声が聞こえないから、ひとりぼっちになった気分だ。
 学校に着くころには雨は止んでいた。傘を閉じたふたりが何か言う前に靴を揃えた。

「なんだ、できるじゃん」

 友梨は呆れつつ、周の隣に並んでさっさと教室に向かった。
 あたしは周りにひとがいなくなったタイミングを見計らって、塩尾瀬の空っぽの下駄箱を探して写真を置いた。

「あと二カ月もしないうちに夏休みがくるけど、今年こそどっか遊びに行こうよ」
「部活の練習次第だけどな」
「えぇ、東京とか行きたい。こっから電車一本でいけるんだよ?」

 六月が終わろうとしている中、友梨の弾んだ声が教室に響く。