「こんなひどい顔見られたんだ…、最悪」

 耳に慣れない声があたしの意識を掴んで離さない。

「…職員室前で見てた写真って、あたしの撮ったやつだったんだ」

 本当なのかな、と疑わなかった。だって、塩尾瀬はひとりで行動することが多くて誰ともつるまないから。
 誰かに言われて仕方なく言ったような感じじゃなかった。
 あの瞳に身に覚えがある。
 あたしが撮った写真をおばあちゃんに見せたときと一緒だ。

「忘れたかったのに」

 今年の一月。寒い冬がまだまだ立ち去らないあのとき。
 毒を含んだ声が雪みたいに降りかかり、悪意を持った手が心に穴を空けていき、あたしは何度も体調を崩した。

 冬を乗り越えて春を迎え、二年生になっても、急にお腹が痛くなって病院には行かず休むことがあった。

 辛い記憶に埋もれたあの写真。灰色がかった写真なんて、一瞬見ただけでは綺麗に見えない。
 でもじっくりと見れば、灰色の空と、くすんだ色の花びらに止まるテントウムシが綺麗に見えてくる。

 あのときの高揚感は、大人になっても忘れられないんだろう。