おばあちゃんの家に帰ると、お母さんが出迎えた。
どうせ周のお父さんについて聞いてくるんだろうと思い、さっさと運動靴を脱ごうと背中を向けた。
お母さんは何も言ってこない。何でだろうと振り返ると、いまにも倒れてしまいそうな顔色であたしを見ていた。
「……おばあちゃん具合が悪くって病院に行ったの。病院まで十静が送ってくれたんだけど、いまからお母さんもタクシーで向かうから」
「あ、あたしも行く!」
「あんたは留守番してて」
門のところに車が止まる音が聞こえた。お母さんはあたしの横を通り過ぎて、玄関を開ける。
あたしは手に持っていた塩尾瀬の傘を玄関の隅に立てかけた。
「や、やだ…ひとりにしないで。お母さん…」
「一花、お母さんを困らせないで。それに十静が様子を見にくるから大丈夫よ」
運動靴を履こうとしたあたしを見ずに玄関を閉めると、そのまま鍵をかけてしまう。
あたしが追いかけたところで、お母さんは意地でも連れて行ってくれないだろう。
「……あたしには何もできないっていうの?」
心に穴がぽっかりと空いてしまった気持ちになり、とりあえず手を洗いに行った。
鏡に映る自分をぼんやりと見つめる。
―「あの写真に一目ぼれしたんだよ、俺は」
熱のこもった瞳で、大きな体を丸めて、あたしを見下ろした塩尾瀬。