意味がわからなくて、目の前の塩尾瀬を見つめた。
 よく見ると、瞳はちょっと青みがかっている。
 モデルみたいに高い鼻の天辺にシワを寄せながら、あたしをじっと見下ろす。

「写真部に入ってんだろ。俺にも写真の撮り方教えろよ」
「あ、あたし、もう退部してるから」
「なんで?」

 驚いた塩尾瀬が肩から手を離したので、あたしは後ずさった。
 足元にあの注意書きが書かれた看板が見えて、すぐ後ろにカーブミラーがあることに気付いた。

「……べつに、もうどうでもいいから」

 カバンをぎゅっと抱きしめると涙がこみ上げてきた。去年のことはあまり思い出したくない。写真部のことなんて特に。

「そ、…悪かったな」

 うつむいた塩尾瀬はあたしの手に傘を押し付けてきた。
 そのまま踵を返して、あたしの知らない右の道にどんどん進んでいってしまう。

「か、カメラ! よかったら貸すから、…その撮ってみたら?」

 塩尾瀬は歩くスピードを緩めることなく、学校を案内したときみたいに何も言わずに帰ってしまった。