着替えを済ませると細かい雨が降り注ぐ中、カバンを抱きしめながら門に向かう。
 震える足が何度も立ち止まりそうになりながら門を目指すと、どこにも金は見えない。

「浅咲、こっち」

 カバンを落としたことにも気づかず、呼ばれた声のほうを見た。
 校舎の影になってるところで腰を屈めて何かを見ている塩尾瀬がいた。

「カバン濡れるぜ」
「……あ」

 慌てて拾い上げると、塩尾瀬が傘を開いた。そのままあたしに近づくと傘を傾けた。

「帰ろうぜ」

 傘を持ってきていなかったから、一緒に入れてもらえるのはありがたい。
 でも、初対面のはずなのにどうしてこんなにも距離を縮められるんだろう。

「濡れるからもうちょっと近づいて」
「う、うん……」

 いつもは使わない帰り道を、誰とも話さないはずの塩尾瀬と並んで帰ってる。

「道、どっち?」
「あのコンビニを右に曲がったほう…」
「ああ、じゃあ校庭突っ切る道のほうが近かったのか」

 町に一店舗しかないコンビニを通り過ぎると、塩尾瀬はあたしの言う道に従って進んでいった。

「転校してきていろいろ周り歩いたんだけど、ここ曲がるとあの校庭突っ切った先の道に通じてる」
「あたし、知らなかった…」
「三カ所も帰り道が用意されてる学校って珍しいよな」

 塩尾瀬の言う通り、かなり遠回りにはなるけど校庭を突っ切った先にある道に出た。