塩尾瀬は周の声にも動じず、ただあたしを見つめていた。
「……行かない、と、あたし」
「わかった」
あっさりと頷いた塩尾瀬はカバンを持って、さっさと教室を出て行った。
その背中を追いかけそうになったけど、友梨がまだ腕を掴んでいたから動けなかった。
「アイツ告白でもしようとしたのか? 一花なんかがいいのかよ」
「ちょっと周静ってば、さすがに一花も可哀そうよ」
「でも一花は何にもできねーだろ。どこに惹かれたんだ?」
まだ教室に残っていた子が笑った。笑いの波がどんどん広がっていくのが、まるで他人事のように見えた。
「茉莉もさ、思うよね。誰も一花なんか好きにならないって」
友梨の声に一河さんがこっちを見て、すぐに口角を持ち上げた。何度も見てきた嫌な笑みにあたしの心が掴まれた。
「そうね。うちもそう思うよ。友梨乃がいなかったら浅咲さんはひとりぼっちになってたしね」
掴まれた心はあっという間に崩れ去っていく。
あたしはもう、それ以上一河さんを見ることなんてできなかった。