下駄箱に靴を突っ込むと、周が「揃ってねえぞ」と笑って揃えてくれる。
 友梨がいたら怒りそうだけど、きょうはその声もない。

「アイツはすげーよな。こういう細かいところにも気を配ってよ」
「…そう、だね」

 教室に入ると、先についていた友梨があたしに視線を向けて―、すぐに逸らした。

「おい、友梨乃。なんで先行ったんだよ」
「べつに、そういう気分だったから」

 なんだよ、と不思議そうに言いながら友梨の傍から離れようとしない周。
 友梨もちょっと嬉しそうな表情を見せる。
 近づいて、いいのかな。あたしの席は友梨の後ろだから、いいよね。
 一歩踏み出そうとして「浅咲さん」と呼ばれる。
 振り返ると、話しかけてもいつもは無視するクラスメイトの女の子が手招きしていた。
 名前は一河茉莉(いちかわまつり)って言って、テニス部に所属してる子だ。

「ふたりにしてあげてよ、友梨乃落ち込んでたんだから」
「え、なんで?」
「なんでだって、鈍ッ」

 傍にいた女の子と笑い合いながら何かをひそひそと話す。