家の門にはひとりぶんしか頭が見えなかった。
慌てて駆け寄ると、振り返った周が「はよ」と手を挙げた。
「お、おはよ。友梨は?」
「ひとりで行くってよ」
「…そう」
ケンカか?と聞かれて、曖昧に頷く。電話で話したことが気まずいのかもしれない。
どうしよう、友梨が離れたら。周はきっと友梨の傍にいるから、あたしはひとりだ。
…じゃあ周のこと好きじゃないって言えば、全部解決するのかな。
「仲直りしろよ、幼なじみなんだから」
「わかってる、きょう謝ってみる」
「そういえばひとの親をたぶらかすのやめとけよ」
「え…」
「親父が久しぶりに一花に会えたって話してたぜ。ただ、母さんはいい顔してなかったけど」
お前には俺がいんだろ、と周が続けて言った。
カバンが肩からずり落ちると、周はさりげなくかけ直してくれた。
顔色を窺うと「きょうの昼何にしようかな」と話題を変えている周がいる。
たぶらかす、なんて周の口から出るとは思わなかった。
また心臓の音がうるさい。周が何かを言って笑っているけど、あたしの耳には雑音しか響いていなかった。