あんなにも跳ねまわっていた心臓が、ぴたっと止まって、聞こえなくなった。
動いて、と心の中で唱えても、友梨の声が反響して邪魔する。
目の前につるされたカレンダーを見つめながら「なんで」と聞いた。
ほとんど息が零れるような音しか出なかった。
―「江連先輩にそろそろ周静に告白したら、って言われて。それに毎朝一花と一緒に登校するより、ふたりで行きたいんだもん」
十歳のとき、おばあちゃんの家に引き取られたあたしのことを聞いて、真っ先に会いに来てくれたのは周だった。
―おれ、はなだ しゅうせい! おまえの家のすぐちかくに住んでるんだ。
繋いだ手のひらが冷たくて、おばあちゃんと同じだと思った。
―あたし、いちか。しゅうって呼んでもいい?
―いいぜ! いちか、よろしくな。
あまりにも眩しい笑顔に、すぐに周が好きだと思った。
恋とは呼べない、幼い感情。家族に向けるような温かな気持ちだった。
―「一花、取らないでね。あんたに周静はつりあってないの。周静のお父さんと帰ってるとこ、近所のひとたちが見てて気持ち悪いって言われてるのよ。ひとのお父さんにべたべたしてるって」
勝手なことばっかり言って、人を追い詰めて。友梨になにがわかるの?
決めつけないでって言いたい。周のこと、好きになって何が悪いのって問いただしたい。
後ろめたいことなんて何もないのに、勝手に噂の種にして笑う近所のひとなんて大嫌いって叫べたらいいのに。
―「返事、どうしたの」
つららみたいに冷たい言葉が体中に突き刺さる。
はく、と唇が動いただけで声が響くことはなかった。
―もし…周が友梨を選んだら…あたしはひとりぼっちだ…。