「…もしもし」

 あたしから切り出してみると、ようやく相手が応じた。

―「……一花」

 不機嫌な友梨の声に肩が跳ねる。居間のほうから「うるさい!」と怒鳴る声が聞こえて、一瞬意識が逸れた。

―「ちくった?」
「? 何を?」
―「ジュース代返してないこと」
「言ってないよ。部活が終わってからは学校のひとと話してすらいないし…」

 ドクドクと心臓の音が耳元で聞こえる。
 ちくったことを言えばどうなるのか、身を持って知っているから、友梨なら言ってないとわかってるはずなのに。

―「…ならいいけど。確認しただけだから」
「そ、それより珍しいね。電話なんて、最近なかったじゃん」
―「まあ、学校で会うし」

 友梨の声は空をさまよう雲みたいに、不安定なままだ。
 ずっと心臓の音がうるさい。止まってしまえ、なんて言えないけど、大きくなる音が悪い予感を引き寄せそうで怖かった。

―「一花って、周静のこと好きじゃないよね?」