電話に出なかったほうが面倒を連れてくる。
布団を蹴っ飛ばして起き上がると、襖の向こうではしとしとと雨が降り始めた。
廊下に設置された電話の受話器を持ち上げると、嫌な思い出が蘇る。
―え、一花ちゃんってケータイ持ってないの? 貧乏なんだね。ジュース買ってあげようか?
―いまどきいるんだ、ケータイ持ってないひと。
クラスの子がケータイを見せてきたときに断ったら、ちょっと笑われてしまった。
笑い声が教室のあちこちに響いて、一時期トラウマになりそうだった。
受話器の向こうから聞こえるはずの声が、まだ聞こえない。
いつもなら相手から「もしもし」と言ってくれるのに。壁にかかった時計を見ると九時を過ぎていた。