あたしが動く前に無口のひとに顎を掴まれた。
 鼻が潰れそうなほどの香水のキツイ匂いと、首から下げた鎖のチェーンが印象的なひとだ。
 深海を覗いてるみたいな瞳が目と鼻の先まで近づいた。

「で? アイツ助けたい?」
「おいおい、真崎(まさき)本気か?」
「あんな趣味の悪いパンツ穿く女のどこがいいんだよ」
「趣味悪くないもん!」

 あたしが周りのひとに反論すると、目の前に近づいた顔がちょっとだけ緩んだ。

「…周を解放してケガを治してくれたら、お話相手にはなるけど」

 真崎と呼ばれた無口のひとは目を瞬かせた。

「お話相手ってなんだよ。絵本の読み聞かせでもする気か?」
「ップ、真崎、お前侮辱されてんぞ! 絵本読み聞かせしてもらわねえと眠れないお子ちゃまだってよ!」
「えっ、そんな言い方してないよ!」
「コイツ結構可愛いよ」
「は? 一花は可愛くねーだろ」
「何でハナダが否定すんだよ、可哀想だろ…」