蹲っていたひとはあたしを見た途端、サッと顔色を変えた。
ぜえぜえ、と不規則な呼吸が続いて、口の端が切れているのか血が滲んでいた。
その場に下ろされると、あたしは一目散に周のところに向かう。
「おい、何で手ぇ離したんだ」
「別に」
「まあいいか、これであとはサツに電話すれば人質交換で俺らの仲間も解放されるだろ」
痛んだ床の上に転がる周に抱きつく。
縄で両腕を縛られているみたいだけど、あたしにはほどけない強さで結ばれていて、何度挑戦しても縄は緩まない。
「周、痛い? 大丈夫?」
「巻き込むとは思わなかった…悪ぃ」
「ううんっ…、無事でよかった…」
周の傍で待機していたひとも含めて、全員で八人もいる。密集した空気が遅れて押し寄せてきた。