あたしの提案を無視して友梨はさらに毒の混じった言葉を続けた。

「失恋でもしたみたいに見えるけど、まさか一花が振ったわけじゃないよね。一花ったら塩尾瀬くんのこと大好きだもの。本当周りが見えないくらいに」
「ちょっと友梨! 恥ずかしいからやめて」

 なんてことを本人の前で明け透けに言うんだろう。

―こんな空気じゃケータイのアドレスも聞けないし…、傘もずっと返せてないや…。

「浅咲を身代わりの彼女にしてから、自分でもわからないけど気分がすぐれない」
「ちょっと一花、そんな面白い話聞いてないわよ」
「言いたくなかったんだもん…」

 明らかに目を輝かせた友梨にあたしはため息をついた。塩尾瀬の気分がすぐれない原因は断言できないけど、たぶん優しいひとだから罪悪感で自分の首を絞めているのだ。

―最近は塩尾瀬が傍にいないから、フィルムカメラの出番がないなぁ…。

「一花、ちょっと来て」

 花の様子を見に来たはずの茉莉に呼ばれる。茉莉はオレンジ色のリボンで髪を結ぶようになり、理由を聞いてみたら彼氏から貰ったそうだ。
 何となく友梨と塩尾瀬をふたりきりにするのは嫌だったけど仕方がない。