「誰なの!? 幼なじみに続いて知り合い?」
「し、塩尾瀬のお父さんみたいです」
「嘘でしょ!」
「本当だ、のどか。塩尾瀬くんがいた頃は彼に夢中で、お父さんの存在は目に留まってなかったと思うけど」
「余計なこと言わないで!」

 休憩室にいた幸さんはからからと笑った。

「いやー、雰囲気が彼にそっくりだけど怖さが段違いだね」
「怖いどころじゃないわよ! お客様の何人か居心地悪そうな視線向けてきたし、わたしも腰抜けそうだったんだから!」

 肩までかかった黒髪は猛獣の毛みたいに風格があった。何度も着古したシャツとジャージらしきズボンを身に纏っていたけど、どこか安っぽさを感じない雰囲気がある。

「浅咲ちゃん怖くなかった?」
「それより…目が」
「目?」
「はい、塩尾瀬にそっくりで綺麗だなって」

 あの青い瞳は親子そろって綺麗だ。輝く海の色より濃く、塩尾瀬がくれたお守りの花とサファイアを混ぜたような色をしている。

「……塩尾瀬くんが働いていたときは一言も話さなかったんだけど、不思議だな」

 幸さんの呟きを聞きながら、塩尾瀬のお父さんの瞳が忘れられずにいた。