周が言った通り、本当に迎えに来たどころか、普通に店内に入ってきた。

「うわ、竜くんには劣るけど男前が来たわ!」
「実は幼なじみなんです」
「え、羨ましい! 連絡先教えてよ!」

 のどかさんが接客しに行ったのを見送りつつ、あたしは休憩室で淡い色のリップを塗る。
 眉毛の整え方をのどかさんが指導してくれたおかげで、どこか垢抜けて清潔な見た目になれた。

「薬局で買ったリップだってばれなきゃいいけど…」
「浅咲さん、コーヒー豆の補充できそうですか?」

 杉枝さんの声に返事をして、倉庫に置かれたコーヒー豆の棚を探った。

「マンデリン…ブルーマウンテン…? どんな味の違いがあるんだろ」

 いくらコーヒーの種類を学んでいようと味がわからなければ、どこか薄っぺらい知識のままになってしまう。
 杉枝さんがコーヒーを淹れる姿をもっと注意深く見ようと思いながら、倉庫を後にした。