「こんな服持ってた?」
「アイツらにおさがりで貰ったんだよ。母さんは安売りのシャツしか買わないから、どれもダサくて」
あたしから自転車を奪った周はペダルに足をかけた。
「さっさと帰ろうぜ」
「ふたり乗りって久しぶりだね。よく周のお父さんに見つかって怒られちゃったけど」
ペダルを踏み込む前に喫茶店を見た周が「ここか」と呟いた。
「休みの日は何時まで?」
「いまのところ五時まで」
「んじゃあしたも迎えに来る」
どこか鼻歌でも歌いそうなほど機嫌がいい周に首を傾げつつ、目の前にある逞しい背中に頬を寄せた。