「浅咲さんは彼のことが好きなんでしょう。どんなところが気になったの?」
「あたしは…」
塩尾瀬が転校してきたときに、冷めきった瞳と目が合った。あの瞬間からだろうか。
「相手のことになると、すごく前向きになるところ…いいなぁっていまは思ってます」
「彼は結構ネガティブだったように見えるけど」
短くなったタバコを誰かが設置した灰皿に押し付けたのどかさんを見上げる。
「あたしにもう一度希望をくれたんです。園芸部に誘ってくれたことも、花が育っていく姿を見せてくれたのも…全部があたしの気持ちを前向きにしてくれたんです」
「…そういえば約束、守らなかったわ」
「約束?」
一度息を吐き出したのどかさんは、空中に溶け込んでしまった煙を探すように視線を泳がせた。
「いつかこの店に花をくれるって言ってたのよ。お兄ちゃんも喜んで待ってたけど、勝手に消えるんだから困ったひとよね」
どこか寂しそうな横顔を見せたあとに、さっさと戻ってしまったのどかさんを見送った。