あたしは言いたいこと全部喉奥に押し込んで、靴ひもに意識を向けた。震える指先は見ないふりをするしかなかった。

「お母さんが言ってあげたのよ。ちょうど見回り中だったからね、十静(とおせい)

 お母さんは周のお父さんの同級生だ。そして幼なじみでもあるなんて、世間は狭い。
 あたしと周が幼なじみになったのも、同い年なのも、全部お母さんが仕組んだみたいで気味が悪かった。

「ね、彼から聞いたわよ。一花ったら十静に授業で楽しかったこと、友達のことを楽しそうに教えてくれたって。きょうはどんな話したのよ」

―それって、あたしが周のお父さんと仲良くしているのが嫌だから根掘り葉掘り聞こうとしてるの…?

「あたし、その疲れてて…なにも」
「あらそう。やっぱり十静にしかいろいろ話さないのね。相変わらず仲良しで羨ましいわ」

 分厚い唇を噛んだお母さんはさっさと居間に向かってしまう。

「…あたしの話を聞きに来てくれたと思ったのに」

 周のお父さんの話を聞きたかっただけだと気付いて、あたしは靴ひもを睨んだ。
 いつまでも若作りをして、この町に来るときは必ず周のお父さんについて聞いてくるお母さん。
 あたしのことなんて好きでもなんでもないのだ。