「お前…、友梨乃にアイツを奪われてたかもしれねえんだぜ」
「えっ、ど、どういうこと?」
「友梨乃はお前に彼氏ができようもんなら、抜け駆けは許さないつって普通に彼氏取ると思うけどな」

 周が言うことだから、ありえない話ではない。いままでだって「周静を取らないで」って泣いて懇願してきたくらいだから、恥ずかしいとかそういう思いを捨てて言いそうだ。

―あ、一花。あんたの彼氏はきょうから私の彼氏だからね。

 その相手が塩尾瀬だと思うと、地面に打ち上げられた魚と同じ気持ちになる。

「気付いてなかったのかよ」
「…なんか周と友梨は意地悪なことをしてきても、最後は冗談だよって言ってくれるような気がして」
「まだお人よしバカのあだ名は卒業できてねえのか」

 呆れながらも笑う周を見て、むかしの面影が戻ってきてくれたような気がした。
 繋がれたままだった手を握りしめると、周が振り返って「なんだよ」とくすぐったそうに言った。