足を止めた周の背中にぶつかる。そんなに高くない鼻を擦っていると、周が手を離して今度は肩を掴んできた。

「何でそんなことになってんだよ。お前は代わりにされるようなタイプじゃねえだろ」
「だって…、傍にいられないほうが辛いから」
「俺じゃダメなのかよ」

 涙を目の縁に溜め込むと、周が遠慮なく頬を引っ張ったので零れ落ちてしまった。

「俺ら幼なじみなんだし、いままで傍にいたんだからよ。一緒に帰るのも、恋人らしいことも全部俺とすればいいじゃねえか」

 蛇に睨まれたような気持ちになって、あたしは抗うためにそっぽを向いた。

「…塩尾瀬ね、優しいし、前向きな気持ちをくれるし、頭いいし…。全部素敵なんだよ」
「俺も全部当てはまるんだけどな」

 頬から手を離した周は小さく息を吐き出した。呆れてはいないけど、どこか寂しそうな横顔を見上げた。