そのまま立ち去った周のお父さんを見送ると、あたしはバイトの時間を思い出して戸締りをしに玄関に戻った。

 バイトから帰ると、会いに来てくれたお母さんにきょうの出来事を話す。
 どうやら中華料理の味付けは上手くなってきたみたいで、お母さんはチンジャオロースをぺろっと平らげた。

「え、嘘でしょ? 十静に恋愛相談したの?」
「うん…つい言っちゃって」
「娘のように思ってる一花から、そんな話されたらショックでしょうね」

 珍しく笑ったお母さんは赤い髪と一緒にお酒の缶を揺らした。

「そうだ、きょうはこれ渡しに来たのよ」
「え、これっ…! ケータイだ!」
「高かったんだから大切に使ってね。あと、通信制限とかあるから気を付けて」

 ずっと欲しかったケータイをプレゼントされて、あたしはだらしなく笑った。