温かな音があたしを夢の世界から引き寄せた。
重たい瞼を持ち上げて、複雑に組み立てられた木造の天井を見つめ、ぴったりと閉められた襖に視線を向けた。
まだ温かな音は続いている。
朝はいつもおばあちゃんの料理をする音で目覚める。
あ、とか細い声を乾いた喉から出してみた。何の特徴もない、いつもの声だった。
「一花ちゃん、おはよう。起きていたのねえ」
「おばあちゃん」
真っ白な割烹着に身を包んだおばあちゃんが、隙間なく閉められていた襖を開けた。
眩しい朝日を背中に背負いながら、温かな視線をあたしの奥に向ける。
「朝から悪いんだけどね。先生から渡されていた宿題終わってないのかしら」
「う…、お、終わりかけてるよ。すっごく!」
慌てて起き上がりながら、あたしのすぐ傍に置かれた宿題の山を自分の背中で隠してみる。
「一花ちゃんが勉強に向き合おうとしているのは、とてもえらいことなのよ。わからないところはおばあちゃんでもいいし、学校の先生に聞いて教えてもらうと、もっと素敵なひとになれるわ」
「…ぜんぶ、わかんないんだもん。学校の授業は難しくてどんどんついていけないし、つまんないし…」
あたしはほとんど手をつけていない宿題をイモくさいカバンに押し込む。なんであたしの通う学校のカバンって土色なの? 百歩ゆずってねずみ色だったらよかったのに。
ぜんぜん可愛くないカバンに、幼なじみとおそろいのキーホルダーが揺れている。