「せめて次からは眉毛整えてリップ塗ってきて! 田舎くさくって嫌なの!」
「あのねえ、喫茶店だから好きにさせてもいいんじゃない?」
「お兄ちゃんがそんな態度だから竜くんはあっさり辞めちゃったのよ!」

 一通りふたりの言い合いが終わったところで、あたしはメニューが書かれた紙を手渡された。

「コーヒーの種類たくさんなんですね。どれも苦いんですか?」
「コーヒーの種類もまともに把握してないの? 今度本を貸すからくまなく読んで覚えてちょうだい」
「はい」

 のどかさんは口調こそ厳しいものの、わからないことは積極的に教えてくれる。

―塩尾瀬のこと、名前で呼んでるし…仲良かったんだな。

「研修期間は一カ月。その間は皿洗いをメインに頑張ってもらおうかな」
「トイレ掃除もよ」
「頑張ります」

 手渡されたエプロンに心が躍ってしまいそうになる。もちろん緊張もあるけど、覚える内容が興味深いものだったので苦痛ではなかった。