「友梨のお母さんは何か言ってない?」
「一花をいじめた事実をもみ消すために奮闘してるよ。あれでも弁護士だし、お父さんは議員だから時間が経てば解決するでしょ」
「……なんでそんなにメンタル強いの?」
「あんたが弱いだけよ。てか、塩尾瀬くんと何かあったの?」

 周りに聞こえない声で話していたあたしたちは、一度言葉を止めた。

「何か気付いたの?」

 こわごわと訊ねたあたしの顔を見て友梨が笑う。呆れているような、バカ言わないでって恥ずかしがっているようにも見える笑い方だ。

「あんたが私と周静を追いかけていたように、私たちはずっと一花を見てきたんだもん。無理して笑ってたり、嘘ついたときはすぐにわかるよ」

 空白が埋まった宿題を見下ろして、あたしは一度だけ目を瞑った。そうしないと涙が零れ落ちてしまいそうだったから。

「言いたくないなら聞かないけど、私と周静を置いていかないでね」
「……うん」

 友梨が「午後から塾に行かないと」と言ったので、その場で解散することになった。