きつね色の髪を束ねている彼は日焼けしていて、なぜか海の匂いがする。
「ああ、サーファーだからね」
疑問に思って訊ねるとさらっと幸さんは答えた。笑うと目元が垂れ下がるのが特徴的なひとだ。
「研修が終わったら実際に店内に出てもらうけど大丈夫そう?」
「は、はい。頑張ります! あしたからお昼ごろに来る感じで大丈夫ですか?」
「こちらとしてはあしたから来てもらえるとありがたいです。塩尾瀬くんがいなくなった穴は大きいので」
杉枝さんがそう答えると、オーナーである幸さんも笑いながら頷いた。
前に塩尾瀬が言っていた「人手不足」の意味がわかり、あのころには本格的にバイトを辞めることを決めていたんだろうかと過ぎ去った思い出に振り返ってしまう。
「浅咲ちゃん夏休み中でしょ? これからどこか出かけたりしないの?」
幸さんの問いに首を振るとサーフィンを勧められた。鈍くさいあたしでも出来るスポーツなのかわからないけど、多分周に聞いたら「一花には無理だ」と言われるに違いない。
―塩尾瀬はお兄さんと和解できたのかな。もう会えないなんてことはないよね…?