「塩尾瀬は、どんなひとでしたか?」
こんなことを聞くのは失礼かと思ったけど、聞かずにはいられなかった。
杉枝さんは意外にも快く話してくれた。
「物覚えが良くて、何でも器用にこなされてましたよ。ああ、特に素晴らしかったのはコーヒーの判別ですかね。色だけ見たら難しいのに、すぐにコーヒーの種類を言い当てていましたから」
杉枝さんが手渡した紙には服装や簡単な接客の内容について書かれてあった。
「お子様連れのお客様にはすぐに子ども用の椅子を用意していましたし、料理を運ぶのも手際がよかったです」
「すごいですね、本当に…。あたしも見習いたいです」
「無理しないでくださいね。彼みたいに突然辞めてしまわれると、オーナーも大変ですから」
杉枝さんは真面目な顔で話し終えると、今度はあたしに履歴書を差し出した。
「きょう面接できそうですか?」
「…後日でも大丈夫ですか?」
「私はいつでも歓迎ですから」
履歴書と一緒に喫茶店の電話番号が綴られた紙を手渡される。さらに仕事内容の紙も受け取ると、あたしは休憩室を出る前に振り返った。
「……あたし、ここで頑張るのでよろしくお願いします」
「ええ、歓迎しますよ。オーナーも喜びます」
泣いてばかりじゃダメなんだ。あたしは何にもできない一花を卒業してみせるんだから…。