「…自分の言ってることわかってんの?」
あたしの頬に温かい手のひらが触れた瞬間、もう涙を止めることはできなかった。
「わかってる、あたしは全然平気だから。本当に、塩尾瀬に冷たくされるほうが辛いから」
塩尾瀬の青みがかった瞳があたしを見てる。これからその瞳が彼女の代わりとして見られるようになっても、どこかそっけない態度を取られるよりずっとマシだ。
「困らせちゃった、よね。ごめん…」
「謝らなくていい。謝るべきなのは俺のほうだ」
「塩尾瀬も、悪くないから」
俺が悪い、と塩尾瀬は自分を責めてるみたいな口調で続けた。
「俺が苦しめてるってわかってるけど。……浅咲がそれでいいなら、俺の傍にいてほしい」
―「なあ、俺はもうどうでもいいのか?」
あたしを押し倒した周と同じ目で、塩尾瀬が見つめてる。周とは違ってどこか怯えているように見えるのは、きっと気のせいではない。
優しい塩尾瀬は、代わりとして見ることに罪悪感が湧いているのだ。
―でもそれでいい…、塩尾瀬が笑顔を見せてくれるようになるまで傍にいよう…。
塩尾瀬の手を濡らしていることに気付いて離れようとしたけど、向こうから距離を縮めてきた。