いま心を打ち砕かれてしまったのは塩尾瀬だけではなかった。

「前に…、会いたいひとがいるって言ってたけど、その彼女さんのこと、だったの?」
「…うん」

 友達でいるべきなんだと自分に言い聞かせていたのは、正しいことだった。

「…こんな俺を選ぶはずがないってわかってたけど…、それでもこんなに辛いとは思わなかった」

 自分の気持ちよりも塩尾瀬の壊れそうな心を助けたくて、頭に浮かぶ色んな言葉の中から一等光り輝くそれを選んだ。

「あたしが、浅咲一花が傍にいる!」

 まるで選手宣誓みたいな言葉が飛び出したけど、後悔なんてなかった。

「誰かの代わりとして見られたほうがマシだって塩尾瀬言ってたでしょ? あたしを代わりにしていいから! 塩尾瀬の傍にいられたらそれだけでいいの」

 いつも垂れ下がっていた袖は捲られていて、痛々しい痣が丸見えだ。
 誰が通るかもわからない場所で、塩尾瀬は平然としてる。
 平然としてるフリをして、失恋した痛みを紛らわせているのだ。