花屋が大通りに面した場所ではなく、一本道が逸れた先にある閑散とした住宅街にあって良かった。
そうでなければ大声で塩尾瀬を引き止めることは出来なかったはずだ。
「教えて、ほしい。あたしが何かしちゃったなら謝るから。塩尾瀬の笑顔を最近見てない気がするの」
街路樹の日陰辺りで自転車を止めると、太陽の日差しを一身に浴びる塩尾瀬に歩み寄った。
「塩尾瀬…何かあった?」
その背中に触れる前に塩尾瀬が振り返った。
「別に…些細なことだよ」
些細なこと、と言われても違和感しかない。
塩尾瀬の表情はもっと重苦しい何かと直面してしまったみたいな、堪えきれない辛さが見え隠れしてる。
「…兄さんの花屋の手伝いをしに行くことになった」