「俺のバイト先で働けば?」
「え、あの喫茶店?」

 カバンからカメラを取り出そうとしていたあたしは、思ってもみない言葉に手を止めた。

「人手不足になるだろうから」

 意味がわかっていないあたしを置いて、塩尾瀬は図書館に行こうと言った。
 ひまわり畑を通り過ぎると、きのうのことがすぐに思い浮かぶ。
 前を走る塩尾瀬からは夏の暑さを無視したような冷たさが、あたしの肌に触れなくても伝わってきた。
 勉強を終えたらその場で解散して、自転車で風を切りながら早々とおばあちゃんの家に帰ると、お母さんが電話と向かい合っていた。

「あ、一花。おばあちゃんの病院に行きましょう」
「面会できるの?」
「そう、落ち着いたみたいだから」

 慌てて支度を済ませると、初めてタクシーに乗っておばあちゃんの病院に向かった。
 真っ白なイメージがある病院は、意外にも多くの色で溢れていた。

「色んな花咲いてるね」
「そうね」

 足早に病院のロビーに向かうお母さんを追いかけながら、病院の外を囲うように咲いた夏の花を見つめる。