玄関を出る前に塩尾瀬の傘が目に留まった。

「早く返さないと…」

 図書館まで自転車で行くため、傘は邪魔な荷物になってしまうだろう。

―夏休みが終わったら返せばいいよね…?

 いつもの時間に裏庭に向かうと、目が眩むような金はそこにいた。

「おはよ、もうそろそろ開花しそう?」
「来週には咲きそうだぜ」

 さりげなく視線を逸らされたことに胸が痛くなりつつも、塩尾瀬の隣に屈んだ。

「実はバイトの面接を受けてみようと思うんだ」

 一度だけ視線がぶつかり合う。青みがかった瞳はどこか影を落としているように見えた。

「図書館は大学卒か専門卒じゃないとダメみたいで…。でも隣町には飲食店とかいろいろあるし、とりあえず面接とか行ってみようかなって」

 明るく話しかけたつもりなのに、塩尾瀬の態度はそっけない。
 友達発言は解決したはずだけど…、何か引っかかっているんだろうか。