お母さんからアプローチしていたなんて知らなかった。あたしの表情を見たお母さんが笑う。
「十静にだって花を摘んで渡したり、撮った写真をあげてたでしょう。めったに笑わない十静が本当に嬉しそうに微笑んだりしていたんだから、いま好きなひとにも何かあげたら?」
「友達が急に何かあげるって変じゃない…?」
「どうしちゃったのよ。イノシシ一花って周静くんに呼ばれて貴方怒ってたことも忘れたの?」
「し、知らない…!」
そんなに猪突猛進のような勢いで周のお父さんにアピールしてたんだろうか。
我ながら恥ずかしい思い出に何とも言えない気持ちになった。
すると、雷みたいな地響きと、大声で笑うひとの声が遠くの方で響いた。
「なに? なんの音…?」
「バイクじゃないかしら」
「バイクって…まさか不良が来てるの?」
―「夏休みが近づくと隣町から来た不良がバイクで駆け回るようになるからな」
前に周のお父さんが言っていた言葉を思い出した。