「…あたしに出来ることってありますか?」
緑茶を飲みきった周のお父さんは、立ち上がる姿勢を見せた。
「一花は勉強を頑張ってくれ。なるべく周静とは関わらないでいてほしい」
「…はい」
あたしも何か手伝いたいけど、何も出来ないってわかってる。
―それにまた押し倒されたら…。
何でも見透かす瞳があたしに向けられると、もうそれ以上は言えなかった。
「何かあったらすぐに教えてくれ。必ず力になる」
周のお父さんを玄関でお見送りすると、壁に立てかけられた塩尾瀬の傘を見つけた。
―塩尾瀬が友達のままでいたいと望むなら…、あたしはそれに応えるだけでいい。辛い思いをするのは慣れっこだから。
「……あたしに、出来ることをしないと」
運動靴に足を入れると、靴ひもをしっかりと結んだ。玄関の鍵を閉めて自転車にまたがると、きょう塩尾瀬と通った道を思い出しながらペダルを踏み込む。
夏の明るい日差しは、まだあたしの頭上を照らしていた。