試合を控えた野球部の空気は、いつも以上に活気に満ちている。
 普段は大声を出さないひとも、つまんなそうにベンチに座って観戦してる後輩も、どこか必死になってバットを振るう。
 今年こそは優勝してみせると意気込む部員が、きょうも公衆電話が近くに設置された門を通り過ぎて走り込みに行った。
 あたしは野球部員じゃないのに、週に一度走り込みに参加しなければいけない。

「きょうは校庭十周してきて」

 校庭で部活動してるひとは、いつも走ってるあたしを見て笑う。

―「なんだ、きょうは校庭か」
―「校庭に賭けたヤツ誰だっけ。ジュース奢ってもらおうぜ」

 そんな声が聞こえたときはなぜか恥ずかしくて、涙が零れそうになった。
 きのうはボールを何回も投げさせられた。おかげで腕がいまでも筋肉痛だ。
 ボールを拾い集めたあとだからか、ぜーぜーと息が落ち着かない。

「返事」

 頬を流れ落ちる汗を見て友梨が「汚い」と言った。
 あたしは呼吸を整えようと必死になるけど、江連先輩に頭を叩かれてその場で蹲る。