黄色の花びらが目の前を通っていくと、夏の匂いがした。

「いろんなヤツと付き合ったし、その分別れも経験した。でも、どの思い出もきのうのように思い出せる」

 塩尾瀬からも音が止んだ。あたしは自転車を止めると、どこか憂いた背中に近づいた。

「…兄さんの彼女だと知っていながら、俺は好きになってた。彼女は母さんの花屋に来るたびにいつも声が弾んでて、顔中で笑ってて…いままでに付き合ったどの女よりも綺麗だった」

 腕を伸ばさなくても、揺れる白い袖を掴まえることが出来る距離まで近寄った。
 あたしは鼻をすすって、熱くなる目頭を擦った。

「ひとの彼女奪って、一週間と経たないうちに別れて…。やけになって売られたケンカ買って、警察沙汰になって家族に迷惑をかけても俺は変わらなかった」

 胸が張り裂けそうなほどに苦しいのに、それでも、塩尾瀬の傍にいたいと思ってる。その辛さを受け入れようとしてる自分に驚いた。