店内を見渡したあと、あたしと一瞬だけ目が合ったあとに男性は店を出て行く。
 真っ黒な髪は清潔に整えられ、耳元にはひとつだけピアスが輝いていた。全体的に清潔感があるひとだったけど、どこか張りつめた空気に身構えてしまう。

 マスターと呼ばれた男性がお手洗いの場所に向かうと、塩尾瀬と同じように姿が見えなくなった。
 程なくしてマスターと一緒に出てきた塩尾瀬は頭を下げてから、こちらに向かってくる。

「ごめん、送る時間が出来たから行こう」
「う、うん…いいけど」

 お会計を済ませるとマスターが小さな声で「一時間後においで」と言ったのが聞こえた。

 道中で見かけたひまわり畑の道を、自転車を押しながら歩いていく。
 むわっとした空気と容赦なく降り注ぐ日差しに、頭の天辺が焦げてしまいそうだ。
 歩道が狭かったので、塩尾瀬が前を歩いてる。いつも周と友梨を見ていた光景と一緒だ。

―この瞬間をフィルムカメラで撮りたいなぁ、でも塩尾瀬はさっきから変な空気だ…。