その目つきが何かを警戒しているようで、あたしは思わず口を開いた。
「……塩尾瀬」
こちらを見た塩尾瀬の瞳から、怯えに似た脆い感情が薄れていく。
「あたし、今年も写真を応募してみようと思う。…まだ写真部のことを思い出すと辛いけど、頑張ってみる」
「俺も、いるから」
「…ありがとう」
「俺こそ」
また窓の外を見た塩尾瀬が息を呑んで「トイレ」と言い、さっさと立ち上がるとお手洗いの場所に行ってしまった。
塩尾瀬の姿が見えなくなってすぐに入店を知らせるベルが鳴り響く。
「マスター、どうも。すみませんけど、弟来てませんか?」
その声に自然と顔を上げて入口に向ける。若い男性がシャツにジーンズ姿でカウンターの奥にいた男性に詰め寄る姿を目撃した。
「いえ、まだバイトの時間じゃないですから」
「ここで待ってていい?」
「いまはお昼時で混んでいるので三十分後なら…」
「そ、どうもね」