どんよりした曇り空に小さくて重いボールが飛んでいく。
ボールが地面に転がると、あたしはすぐに拾いにいった。
「ほら、浅咲さん! ちんたら走らないでさっさと拾う!」
野球部のマネージャーであるあたしは、同じマネージャーで一つ上の先輩の怒声に足を動かせた。
すぐに拾わないと次のボールが飛んでくるから、体力勝負なのだ。
塗装が剥げた屋根の下で記録を書いていた先輩のもとに戻ると、楽しそうに友梨と笑ってた先輩が怖い目つきでこっちを見た。
「遅い、次はもっと早く走って。あと、返事は?」
「はい」
「謝罪して」
「…すみません」
江連先輩は男の子みたいに髪が短いけど女のひとだ。全校生徒百人もいない学校の会長を務めていて、同じマネージャーの友梨を気に入ってる。
「もう打つわよ、持ち場に戻って」
「はい」
太陽が見えなくてもあたしの肌をじりじりと焦がしていく。
ずっと走ったり、ボールを取るために屈む動作を繰り返していると、頭の奥がぼうっとしてしまう。
「また怒られてる」
「とろいからだろ」
ひそひそと野球部の後輩があたしを指差して笑う。
野球部に所属して半年が経とうとしているのに、あたしの立場は変わらないままだった。
女の子なのにボール拾い担当で、放課後は道具の片づけをひとりでやらなければならない。
カン、と甲高い音を立ててボールが勢いよく打ちあがる。
着地の場所を予想しながら白を目で追いかけると、先輩の怒声が響く前に走り出した。