塩尾瀬を傷つけるお父さんは、あたしと同じようにひとりぼっちであの場所に住んでいたんだろうか。周が言ってた廃墟が立ち並ぶ薄暗いアパートで…。
 十歳になるまで、おばあちゃんの家に預けられるまでひとりだったあたしには、痛いほど気持ちがわかってしまう。

「本当は園芸部なんて作らないつもりだったし、花も見たくなかった。情けないけど、俺はどんどん腐っていって、どうしようもないほど落ちぶれるはずだった。でも浅咲のおかげで踏みとどまれた」
「あたし、のおかげ…?」

 目を瞬かせると、塩尾瀬はまたカバンを探って写真を見せてきた。あたしが一番初めに渡したあの思い出深い写真だ。

「初めて浅咲の写真を見たときに、自分の好きなことを忘れたくないって思ったんだ」
「……うん」
「泣くなよ」

 塩尾瀬がくれたハンカチで目頭を押さえると、塩尾瀬がくすぐったそうに笑った。

「塩尾瀬、聞いてくれる? 写真部であったこと…」

 言えることは言ってしまいたくて塩尾瀬を見ると、あたしの知っている温かな瞳を向けて頷いてくれた。

「…去年の九月に写真を応募したときは、まだ写真部のひととはそこまで仲が悪くなかったんだ」