「メロンソーダとか頼んだら変?」
「別に? 子どもとかも親に連れられて来店するし、頼むひとがいるからメニューに存在してるんだよ」
「…あたし子ども舌なのかな」

 ちょっと落ち込みながら注文を終えると、塩尾瀬がカバンから紙を取り出した。ちょうどチラシと同じくらいのサイズだ。

「今度この花まつりに行かない? 色とりどりの百日草が見れるし、他にもいろんな花が咲いてるみたいなんだ」

 富士の花まつりと楽しそうなポップで書かれたチラシには、淡い色の花が写ってる。

―塩尾瀬と育ててる百日草はまだ蕾だけど、花が開いたらこんなにも綺麗なんだ…。

「…このチラシ、父さんがくれたんだ。父さんは仕事の都合で一日家にいないこともあるし、時々ひどいこともするけどさ。ただ嫌なひとじゃないんだ。俺と母さんが植物好きだってことを覚えていてくれるし、俺の作った料理は残さず食べてくれる」

 目の前に座る塩尾瀬はチラシを持つあたしの手に触れた。その熱がゆっくりとあたしの肌に溶け合っていくみたいだ。

「母さんは、死んだんだ」

 コーヒーの匂いに紛れて、寂しい声が響く。

「今年の春に、交通事故でさ。花屋は俺と兄さんが継ぐ予定だったんだけど、いろいろトラブルがあって、離婚してた父さんがいるあの町に住むことにしたんだ」
「…そうなんだ」