静かな店内に普段聞かない音楽が流れている。
 まばらに人が座っていたけど、全員大人だ。
 こんな暑い日に長袖のシャツを着てるひともいて、仕事の休憩中なんだろうな、と観察した。

 カウンターでカップを磨いていた男性は塩尾瀬に軽く手を挙げて、奥の席を指差す。
 塩尾瀬はそれに対して軽く頭を下げ、あたしの手を掴んで席まで向かった。

「コーヒーとかも勉強してるの?」
「そ、結構淹れ方とかこだわりがあるからな。コーヒー豆の種類も豊富だし」
「すごいなぁ」
「ちなみにコーヒー飲めんの?」
「…飲んだことない」

 そうだろうな、と塩尾瀬は笑いながら、メニュー表を広げた。
 あたしも同じように広げてみる。確かにコーヒーにこだわっているのか、コーヒーだけでいろんな種類があった。