自転車を漕いで図書館から離れると、ひまわりが咲く道を抜けて、大通りを少し進んだ先にある飲食店に着いた。
 塩尾瀬の自転車が揺れるたびに、カゴに入ったじょうろや道具がカラカラと音を立てる。

「ここコーヒー専門の喫茶店で、軽食も一応あるんだけど。オーナーが食器とかこだわってて、それ目当てに訪れる客もいるくらい見事なもんだぜ」
「へえ! 外観はレトロな感じだね」
「創業十五年は超えてるらしいぜ」

 あたしが小さい頃から営業していたのに全然知らなかった。
 十歳のころはおばあちゃんと一緒に隣町までバスを使って、いろいろ歩いて回ったのにあんまり覚えていない。

「この外観、フィルムカメラで撮っていいかな」
「いいけど、フラッシュは使うなよ」

 カバンに入れていたフィルムカメラを取り出し、シャッターを切った。
 煉瓦の壁にツタが垂れ下がっている外観を見ながら、塩尾瀬のあとに続いた。