二階にテーブルが用意されていたので、そこでも距離を縮めながら勉強を教わる。
塩尾瀬は孝橋先生より丁寧な教え方で、どんどん問題を進めていく。
その心地いい声が図書館に響くことなく、ちょうどいい声量であたしの耳に届いた。
塩尾瀬の「何でこうなると思う」に対して、ちゃんと答えられると頭を撫でられる。
苦手な数学がひとつでも解けるようになると、小さなやりがいを感じた。
塩尾瀬が腕を持ち上げたときに腕時計を巻いてることに気付いた。
「素敵な時計」
「初めての給料で奮発したんだ」
お仕事を頑張ると高くて買えなかったものを買えるようになる。いろんな楽しみが増えていくんだ。塩尾瀬は腕時計を買ったときのことを思い出しているのか、口角が緩んで嬉しそうだった。