じょうろの中で波打つ水を零さないように運ぶと、塩尾瀬はもう植え替えを終えていた。
「持ってきたよ。すごいね、もう終わってる」
「やりたかった?」
「うーん、なんか根っこ引き抜きそうで怖い」
じょうろを受け取ってもなぜか水をかけない塩尾瀬に首を傾げた。
「それにしても綺麗な蕾だね。葉っぱも鮮やかな緑だし、開花したらもっと綺麗になるのかな」
「…まあ、ここから気を抜けねーな。病気にならないように気を付けないといけないし」
袖をゆっくりと下ろした塩尾瀬は小さく息を吐いた。横顔は驚くほどに青白い。
いつもより細い背中が震えているような気がして、擦ってあげるべきか悩む。
「乾燥しねーようにシート持ってくるよ」
でも、塩尾瀬は言いたくないことは言わない雰囲気だ。
「そういう工夫も必要なんだ。メモしないとね」